健康管理
伝染病とワクチン接種
伝染病
細菌、ウイルスなどの目にみえない微生物がときにひどい伝染病をひきおこすことがある。そのなかでも犬にとって特に注意すべき病気を次に紹介する。
- ジステンパー
- パルボウイルス感染症
- パラインフルエンザウイルス感染症
- 犬伝染性肝炎
- 犬コロナウイルス感染症
- レプトスピラ症
- 狂犬病
詳細はこちら→犬の病気の感染症へ
ワクチン接種
ワクチンは実際に病気に感染することなく免疫力をつけるのを目的としている。
実際には不活化した病原体または弱毒化した病原体を注射し、免疫を刺激することによって、病気に対する抵抗力を誘導するのである。
しかし、非常に若い子犬や体調不良のため免疫力が落ちている動物では、ワクチンを接種してもその効果が十分得られないので注意が必要である。
特に子犬に関しては、移行抗体の関係から複数回、間隔をあけてワクチンを接種し、確実に免疫力をつけることが必要である。
成犬になっても免疫力を持続するために継続的なワクチン接種が必要である。そのため、当院では年に1回のワクチン接種を推奨している。
現在主流となっているのが狂犬病以外の前出の病気を含んだ8,9種混合ワクチン、さらにレプトスピラを除いた5,6種ワクチン、及び狂犬病ワクチンである。
ペットホテルなど、多くの犬が集まる場所に飼い犬を連れて行くことがある場合にはこれらのワクチン接種は必須である。
寄生虫の予防と駆除
おもな犬の寄生虫は大きく分けて、心臓血管系に寄生するもの(犬糸状虫)、腸管に寄生するもの(回虫、鉤虫、鞭虫、瓜実状虫など)、体の外に寄生するもの(ダニ、ノミなど)がある。
寄生虫の予防と駆除に関してはそれぞれのライフサイクル(生活環)をよく理解することが重要なポイントになる。
犬糸状虫(フィラリア)
犬糸状虫は犬の心臓に寄生するソウメン状の線虫で体長30cmに達する。
全身の血液循環が障害され、慢性症では咳、息切れ、失神、浮腫、腹水などが、また急性症では突然血色尿を排出したり、喀血して急死することもある。
犬糸状虫は蚊によって犬から犬に感染し犬の体内で成虫になる。
この犬糸状虫は予防薬を定期的に投与することで、子虫が心臓へ到達するまでに殺滅することができる。
現在の予防薬は蚊の出現時期の1ヵ月後(4~5月)から、蚊が出現しなくなって1ヵ月後(11~12月ごろ)まで月に1回与えるものが中心である。
当院では錠剤タイプ、お肉タイプ、スポットタイプ(首筋にたらすタイプ)を用意して個々にあったものを使用している。
子虫保有犬に予防薬を与えると、ショック症状が出現することがあるので、当院では前年予防している方に対しても毎年春に血液検査で犬糸状虫に感染していないかチェックしてからの投薬を勧めています。
腸内寄生虫
腸管には線虫(回虫、鉤虫、鞭虫など)や条虫(瓜実状虫)などが寄生し、重度寄生では下痢、腹痛、貧血、発育不良などを引き起こします。
いずれも感染源(感染幼虫や成熟卵または条虫ではノミ)は口から入ることにより感染するので、糞便の処理やノミの駆除を確実に行うことが重要です。
また、犬回虫は母犬から胎盤感染することもあります。当院では感染源がいたるところに存在するため、近年3ヶ月に一回の定期駆虫をお勧めしております。
外部寄生虫
犬に良く見られる外部寄生虫はマダニとノミです。
これらは犬の体表に寄生して吸血するだけでなく、マダニはバベシア病やライム病、またノミは瓜実条虫の媒介者として悪さをしてます。
またノミの吸血には痒みを伴い、アレルギー性皮膚炎をおこします。
当院では春から秋の終わりまで月に1回ですむ駆虫剤(フロントラインプラス)の使用を勧めております。
歯の管理
犬の歯の病気は非常に多いです。
犬の場合、歯周病が多く、逆に虫歯は非常に少ないのが特徴で、2歳以上の犬の80-90%が歯の病気にかかっているといわれています。
歯の病気が多い理由のひとつは、私たち獣医師が日頃の歯の管理の大切さを訴えているにも関わらず、歯の病気に対する飼い主の方の関心がいまひとつ薄いことです。
犬はもともと野生の動物だったのですから、歯など放っておいてもいいと考えている人も少なくないかもしれません。
また、歯の病気は比較的ゆっくり進行し、犬が突然苦しみだしたり、急激に元気がなくなるなど、顕著な症状が現れないので、飼い主もあまり重視しないということも考えられます。
歯の病気が多いもうひとつの原因、高齢化が進んでいることでしょう。
犬も高齢まで生きるので、歯が弱くなり、歯が抜けてしまったり、いろいろな病気にかかりやすくなります。
実際には、歯の病気があるといろいろな障害が引き起こされるので、歯の管理は大切です。
では、歯の管理としてどのような方法がもっとも良いでしょうか。現在のところ歯科専門医の方々がよく言われているのが歯ブラシによる歯石・歯垢予防が一番いいと言われています。
ですが、実際にそれをやれている飼い主様は非常に少ないのが現状です。
これからわんちゃんを飼われる方や歯ブラシができるかもしれないわんちゃんがいる方は獣医師等にやり方を聞いて段階的に歯ブラシを覚えさせてください。
犬から人に感染する病気
パスツレラ症
イヌの約75%が口腔内常在菌として病原体を保有しています。
他の人獣共通感染症(ズーノーシス)とは比較にならないほど高い病原体保有率ですが、この感染症の存在はほとんど知られていませんでした。
この病気は感染したイヌに咬まれたり、ひっかかれたりする外傷性や、ペットに口移しでエサを与えるなど、過剰なスキンシップによって感染します。
まれに、飛沫による感染も報告されています。
これまでは皮膚化膿症が主な症状であるとされてきましたが、最新の調査では、呼吸器系の疾患、骨髄炎や外耳炎などの局所感染症、敗血症や髄膜炎など全身重症感染症、さらには死亡に至った例も確認されています。
エキノコックス症
エキノコックス症は、キタキツネや犬などに寄生し、人に感染すると重い肝機能障害を起こします。
潜伏期間は5~15年で、発症すると病巣を完全に切除する以外に有効な治療法はありません。
日本では北海道だけに存在すると考えられてきましたが、最近の調査で北海道以外での感染が確認されました。いずれも道内で飼われた後、人と一緒に移動したものと思われます。
犬回虫
犬回虫症は、ペットの糞便から、何らかの経緯で人の体内に侵入し、成虫になれずに体内を移行して内臓や眼に入り、幼虫移行症と呼ばれるさまざまな障害を引き起こす感染症です。
感染したイヌの糞便に含まれる虫卵を、何らかの事情で(たとえば砂遊びや体毛に付着した虫卵を意識せずに)口に入れてしまうことで感染します。
また、感染した家畜(主にニワトリ)のレバーを生で食べることでも感染します。
アメリカの症例では、陽性患者の67%が眼幼虫移行症、20%が内臓幼虫移行症で、眼幼虫移行症の患者の95%が明らかな視覚障害を持ち、20%が片目あるいは両目を失明していました。
これらは必ずしもアメリカ特有のものではなく、日本でも最近失明例が出ています。
アメリカでの調査では、全米の1~11歳の子どものうち5~7%が陽性を示し、ニューヨーク市では1~15歳の5%が陽性を示すという結果が出ています。
しかし両グループとも、ほとんどが無症状であったことが、この感染症の診断の難しさを表しています。