腎と泌尿器科
腎と泌尿器科
腎と泌尿器科について
近年、犬猫の高齢化によって腎臓疾患の罹患が増えてきています。また、泌尿器疾患に関しても診断技術の向上、飼い主様の犬猫の体調の変化に対して早期に発見されることもあって増えていると思われます。
一方で病気に関していろいろなことがわかってきたこともあって治療も多種多様になってきており、どこまでの検査をおこない、どこまでの治療をするべきか悩むことがしばしば起こり得ます。犬猫は人間同様に治療や検査に対しておとなしく、落ち着いて行えることは少なく、投薬、食事管理も人ほどにできることはまずありません。その中で当院での工夫としてそれぞれの子によって治療、検査をほどほどのストレスですむように心がけて行っております。
我々獣医師は病気を診断するのが目標ではなく、それぞれの子が少しでも長生きができて幸せな日々が過ごせるように手伝うことが本来の使命だと思っています。
主な症状
尿に血がまじる
おもに膀胱からの出血(膀胱炎、膀胱結石、膀胱腫瘍)が多いが、他に腎臓(腎臓腫瘍、腎出血、腎結石)、尿管(尿管結石)、尿道(尿道結石、尿道閉塞)、子宮からの出血の他、溶血(血が溶ける)からくる病気(熱中症、玉ねぎ中毒、免疫介在性溶血性貧血他)もあります。
尿があまり出ない
尿が少ないものとして大きく分けて2つに分類されます。尿が詰まり気味になっている状態。尿があまり作られていない状態です。
前者は尿管結石、尿道結石などがあり、ひどいものでは尿道閉塞になっていたり尿管閉塞になっているものです。後者では腎不全の無尿期だったり、脱水がひどかったり、体調不良などで飲水が不十分だったりしておこります。また、よくあるケースとして尿をあまりしていないと思っていたら予想していないところにもらしていたり、わざとトイレのところでないところにしているといったことが多々あります。その場合は、頻尿傾向がないかみてあげましょう。
尿が頻繁に出る
最も多いのが膀胱炎になります。一方、飲水量が増加していて尿量が増えるパターンもあり、糖尿病、クッシング症候群、尿崩症なども否定できないです。
尿もれがある
膀胱炎、前立腺肥大(腫瘍・膿瘍ふくむ)、上記の疾患の他に膀胱が収縮しない(膀胱アトニー、神経原生排尿障害)や、尿が詰まりかけている(尿道閉塞、尿道結石、尿道狭窄、尿道腫瘍)、おしっこがためられない(炎症性尿失禁、老齢性尿失禁、尿道括約筋等による尿失禁)とさまざまな疾患が考えうる。
尿を出そうとすると痛そうに鳴く
尿道の障害(尿道結石、腫瘍、血餅)や、陰部、陰茎部異常(腫瘍、腫れ)、椎間板疾患などからくる痛みなどはたまに見逃されがちである。前立腺の病気(肥大、腫瘍、膿瘍)でも痛みを伴うことがある。
痩せてきた
すべての病気において痩せる所見は認められうるものなのでいろいろな病気が考えうる。その中で腎泌尿器疾患では腎不全、腎臓腫瘍、膵炎等で痩せていることが多いが糸球体腎炎等によるタンパク漏出が見逃されることがあるので注意しましょう。
便が出ずらい
よく見かける疾患として去勢をしていない子達では前立腺肥大が最も多く、その他に前立腺炎、前立腺膿瘍、前立腺腫瘍、肛門周囲の腫瘍、肛門嚢炎、肛門嚢破裂、肛門部脱腸、肛門周辺の麻痺、馬尾症候群、椎間板ヘルニア他多数あります。
元気がない
いろいろな病気で引き起こされますが腎泌尿器疾患では腎不全、尿道閉塞、腎腫瘍、膀胱腫瘍、腎盂腎炎等で元気がなくて来院される方が多いです。
よく水を飲む
慢性腎臓病、糖尿病でよくこられますが、尿崩症もあり、他に生殖器疾患である子宮蓄膿症がよく見られます。
多い病気
急性腎障害AKI
(急性腎不全←正確には不適当な名称だが多くの方がこちらで認識している為記載)
症状
尿量が増えるもの、減るもののどちらかがでる。吐いたり、下痢をしたり、食欲が減るなどの症状が出ることもある。昏睡や具合が悪そうにしていたりすることもある。脱水がみられたり、口臭がしたり、痛みを感じたりすることもあり症状はいろいろである。
原因
犬では毒物、薬物、他に感染によるものが多い。免疫介在性のものもある。猫ではおしっこが詰まることによって起こることが多い。猫で有名な中毒としてはゆりがある。犬でよく知られているものとしてレプトスピラ感染がある。
治療
それぞれの原因によって治療が異なる。猫のおしっこ詰まりでは開通処置がじゅうようになってくる。食物などによる中毒であれば早期であればはかせることがまず大事になってくる。一般に輸液療法が行われることが多く、尿が作られていない時などは利尿剤を使用したり、一部の病院では血液透析を行うところもある。
症例画像
治療後の経過
予後は原因により異なる。全体の死亡率は半分とも報告されているものもある。感染や結石による尿路閉塞では2〜3割の死亡率で毒物等では8〜9割とも言われている。
慢性腎臓病CKD
(慢性腎不全←正確には不適当な名称だが多くの方がこちらで認識している為記載) 慢性の定義として持続的な(3ヶ月以上の)腎障害が存在する、または、持続的な糸球体濾過量の低下。
症状
たくさんの水をのんで大量の尿をする。食欲不振や嘔吐をする子もいる。全身に様々な影響を及ぼす為症状も多彩である。犬では膵炎などの消化器の病気を併発することが多い。
原因
感染、腫瘍、先天性異常、虚血、中毒など多岐にわたるが、原因自体を特定できない場合も少なくない。
治療
食事管理が重要であるが食欲不振の原因を解除する治療が必要になる。脱水、カリウム異常に対しては点滴などを行い、高りん血症、高窒素血症等には投薬などを行い、血圧が高ければそれを抑える薬を、尿から蛋白が漏れ出ていればそれを抑制する薬をあたえます。
猫では腎機能低下を抑制及臨床症状の改善のお薬を使用する場合もあります。腎性の貧血を起こしている場合には造血剤、鉄の補給を行います。また、忘れがちな重要な管理として脱水をさせないことがとても重要である。
症例画像
治療後の経過
その子の症状により予後が大きく異なる。腎臓の糸球体の病気、アミロイドーシスは予後が悪い。心臓病や膵炎を併発しているこは維持管理が難しいと言われています。それ以外の子たちはそれなりに良好に維持管理できることが多い。ただし治る病気ではないことを念頭においてほしい。
治療に関しての注意点、考え方
慢性腎臓病はIRIS分類においてもステージ1という早期腎臓病が診断できるようになってきたため食事療法を早期に行う考え方が進んでいる実態がある。
しかし慢性腎臓病においての治療は一辺倒ではないことを理解いただきたい。なぜなら、慢性腎臓病になった原因が存在した状態での慢性腎臓病の治療は効果も低く、悪化因子が常在する中では治療効果は限定的と考えなければならない。例えば尿路結石等は、結石の除去・予防がさらなる慢性腎不全の悪化、進行の抑制になるのである。
つまり、慢性腎臓病とひとくくりにしてもそれぞれの個体によって発生する原因、程度、合併症等に応じて診断、治療が違い、症例の状況に合わせて変更しなければならない。
診断における注意点
クレアチニンが高くない
筋肉量が低下していると数値があまりあがらないことがある
尿蛋白が出ているが腎臓の問題ではない
膀胱炎をおこしている。高タンパク血症、血尿、精液等であがることもある
腎臓が悪くないのにに尿比重が下がる
飲水の影響
高窒素血症
お肉などのタンパク質を過剰に摂取している子で腎臓が悪くないのに上がってしまう。
膀胱炎
症状
頻尿(ちょこちょこトイレに行く)、血尿(尿が赤い・ピンク色になっている)、排尿障害(したそうにしてるが出なかったり、でずらかったりする)、排尿痛(排尿姿勢をとると痛がる)を認める。熱があったり、具合が悪そうだったり、食欲がなくなったり、吐き気をもようしたりすることもある。
原因
腎臓や前立腺の異常や、膀胱結石や尿路のガンなども原因になる。他に糖尿病や副腎皮質機能亢進症などのよく水を飲む症状を呈する病気を持つ子でもなりやすい。陰部をいじって尿道を介して感染することが多いのでよく舐めている子や、陰部が汚れやすい子などで発生しやすい。
治療
抗生剤による治療を行う。可能であれば尿培養ならびに感受性試験を行い最適な抗生剤を使用するのが望ましいがコスト、検査に要する時間等から初発の膀胱炎では尿沈渣の鏡検で最近が確認された段階で治療を開始することが多い。また基礎疾患がある場合にはその疾患を治す治療も行う必要がある。
症例画像
治療後の経過
基礎疾患(他の病気)がなければ完治することが多い。慢性化しているものでは長期的な抗生剤投与も必要になる。繰り返す場合には気づいていない別の病気があることが多いのでしっかり精査してもらいましょう。
膀胱結石・尿路結石
症状
血尿、頻尿、排尿の際の痛みが一般的だが、症状が出たり消えたり、無症状のこともあって他の病気の検査過程で偶然みつかろことも多い。
原因
慢性膀胱炎等が引き金になって結石症になるパターンや、食事や飲料水(水等)、おやつなどが原因でなっている子が多い。
一方で結石を作りやすい病気を持っている子もいる。例えば、副腎皮質機能亢進症、糖尿病、慢性腎不全、上皮小体機能亢進症、尿細管アシドーシス、肝不全、前立腺の病気、門脈シャント等である。
治療
ストラバイト結石が強く疑われる場合はどこかで詰まってなければ、ストラバイト溶解療法をおこなう。
よく行われるものとしては療法食でストラバイト溶解食とされているものを使用して溶かしていく。また、細菌感染が関与している場合には抗生剤治療もしっかり行う。溶解療法が不成功で終わった場合は手術等で除去を行う。
症例画像
治療後の経過
結石症においては、結石除去後の再発予防が重要で、基礎疾患の治療を行い、水分摂取量を増やし、結石の成分ごとに推奨されている食事療法及び薬物療法を実施すれば維持できることが多い。ただし、基礎疾患の治療がうまくいってない時や、飲食管理がうまくいってない子ではしばしば再発がおこる。
膵炎
症状
吐き気、下痢、食欲不振、お腹が痛い、元気がないなどあるが、吐き気、下痢などの症状が認められないこともある。激しいものでは短期間に死亡することもある。ふるえや、衰弱しているこもいる。
原因
太っていたり、脂肪分の多いものを食べていたり、高脂血症(引き起こす病気として副腎皮質亢進症や糖尿病、甲状腺機能低下症などを持っている)があったり、感染や高カルシウム血症、胆管の病気、ステロイド治療、膵臓の腫瘍だったりと様々である。
治療
点滴や、吐き気を抑える治療、痛みを抑えたり、炎症を抑える治療とともに栄養管理をする。絶食を行うこともある。食事の管理としては低脂肪食のみの食生活をすることが多い。入院の際には経鼻食道/食道栄養チューブを使って栄養をとることがある。
症例画像
治療後の経過
治療後の状態は様々で多くは長期化し、経過は予想できない。別の病気も出ている子ではなくなる子が多く、様々な合併症が起こるため退院後でも要注意である。
来院のタイミング
すぐに診察した方がいいケース
吐き気(食欲不振を伴った)、腹痛、おしっこが出ない
当日中に診察した方がいいケース
吐き気、食欲不振、排尿困難、ひどい下痢
数日中に診察した方がいいケース
軽い吐き気(基本は当日診察)、食欲低下、軽い下痢、頻尿
問診
動物の情報(年齢、性別など)
今回の症状・変化がいつから出ているのか(急性・慢性)
症状の変化
治療効果の判定に治療前、後の症状に関して飼い主様の印象、犬猫の行動の変化に関してどうしても診察室内ではわからないことが多いので家においてどのように変化しているか問診で確認することによって治療効果がより確認でき、薬の減量、治療の継続等の判断材料となり機械の数値以上に価値ある所見を見ることができます。
視診・触診
概要・目的・内容
視診、触診は昔から病気を発見する重要な検査で数字化、映像化することが困難なためやや軽視され気味です。しかし、その重要性は他の検査より重要度は高いものになりますので飼い主の皆様には診察の協力が不可欠です。
具体的に言うと、どのような病気の可能性があるかを探ることによってこの後の検査の内容をしぼることができ、病気の診断がしやすくなる。病気の進行度合いを把握する補助となることにより予後や、治療効果を比較できる。など様々なメリットがありますのでたまに検査を強く望まれて検査ありきの診察になることがありますがあまり望ましいことではありませんので飼い主様の協力がとても大事になります。
体型の変化、筋肉の増減、毛艶、脱毛や、皮膚摘み試験(脱水の確認)、触診による腎臓の大きさ、形、位置のチェック、膀胱の大きさ、サイズ、形のチェック、皮膚の色、白目の色のチェック、口腔のチェック、などだけでもいろいろな情報がそこから享受されます。
検査
血液検査
腎臓:BUN、CRE、P、Ca、電解質、SDMA、シスタチンC等。また原因に対する血液検査
病理検査
尿検査
尿比重、赤血球、尿蛋白、UPC、尿沈渣(膀胱炎チェック)。
レントゲン検査
超音波検査
治療
診療内での治療
診療内での治療
必要な場合:ご家庭での治療